近未来SF釣行記?

 

憧れの大地、北海道に幻のネイティブ・ウグイを求めて

20××年

やっとの事で三日間の休暇を取り、北海道にやって来た。
東京でのせわしない日常の傍らルアーフィッシングにのめり込み、時間さえあれば山梨や福島の管理釣場に通い続けてきた。
いつかは自然の河川で天然の在来種を釣ってみたい、そんな想いがようやくかなう時が来た。
本州ではほぼ絶滅したといわれるウグイ(東北の一部にはまだ生息しているが、天然記念物で釣る事はできない)、ここ北海道ではもしかしたら釣り人のロッドをしならせるかもしれないのだ。
レンタカーでウグイのメッカとしてあまりにも有名なS川に直行する。
平日にも関わらず結構人が来ている。ここは釣人のためにかなり立派な駐車場があちこちに整備されている。北海道の大自然を求めてわさわざやって来たのに、何だか興ざめだ。しかし、かつて迷惑駐車やゴミの投棄で地元住民とのトラブルが絶えなかったというから釣人にも責任がある。
先行者のいない場所まで歩き、第一投。キャストしたスプーンは何事もなく戻ってくる。その後も空振りが続いた。やはりネイティブウグイというのはそう簡単に釣れるものではないのか。
あきらめかけた頃ボサの被さるちょっとした淀みになにげなくキャストすると、手元に明確な当たりがきた。
釣りあげてみると何とラージマウス・ギルだった。旺盛な繁殖力で本州の淡水にあっという間に広まったこの外来魚が北海道にまで進出していたとは・・・
はたしてウグイはいるのか、下流でフライロッドを振っていた釣人に声をかけてみた。
「いやぁ、だめだねラジギルばっかりで。」
話込んでみるとこの人は地元のフライマンで、長年この川に通っているという。
昔はウグイなんて沢山いて、ヤマベ(標準和名ヤマメ〜管理釣場でおなじみの魚)釣りの外道扱いで下手な釣人程ウグイばかり釣れたという。
ヤマベ解禁の頃にはオレンジ&ブラック・ストライプの婚姻色鮮やかなウグイが川を埋めつくしていた。
当時はウグイ狙いの釣人は少なかったが、下流や三日月湖ではマルタウグイの60cmクラスがなんぼでも釣れた。
ベテランの釣人が語るそんな夢のような世界が二十世紀の日本には確実に存在していたのだ。
結局S川をあきらめ移動する途中、小さな川を見つけたのでとりあえず寄ってみた。
国道付近は護岸されているが、少し離れると自然の流れがいいポイントを形成している。
淵にスピナーをそっと投げ入れた途端、ロッドがぐんとしなった。この引きはラージマウス・ギルとは明かに違う。
強烈なファイトのあと、すぐにおとなしくなって寄って来たのは、夢にまで見たウグイだった。
15cm位の小型だがヒレが伸びて銀ピカの、間違いなく天然物だろう。
その美しい姿に見とれた後、そっとリリースした。
幻といわれるネイティブ・ウグイに運が良ければ出会える北海道、その豊かな自然をいつまでも大切にしていきたい。
ウグイに触れたその手には、独特の香りがいつまでも離れなかった。


最近は養殖技術が発達し、本州では良型ウグイの成魚放流も増えてきた。
写真はドナルドソン系ウグイ。
*この釣行記はあくまでもフィクションです、念のため。